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自動車業界との連携による国際標準規格ISO 16063-17の発行【産総研】

2016年9月6日

自動車業界との連携による国際標準規格ISO 16063-17の発行
-衝突安全性に資するひずみゲージ式加速度計の評価手法を確立-

ポイント

遠心加速度による一次校正方法を定めた国際標準規格の発行
遠心校正の技術的信頼性を確保したラウンドロビンテストの実施
自動車輸出に伴う衝突認証における適合性評価のエビデンスの提供

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下、産総研という)イノベーション推進本部 大田 明博 総括企画主幹、工学計測標準研究部門【研究部門長 高辻 利之】強度振動標準研究グループ 野里 英明 主任研究員らは、㈱共和電業、トヨタテクニカルディベロップメント㈱、一般財団法人 日本自動車研究所、㈱日産クリエイティブサービスとの連携を通じて、計測における不確かさの表現ガイド(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)に準拠した、遠心加速度を用いた加速度計の一次校正法を国際標準化機構(ISO)に提案し、ISO国際標準規格(ISO 16063-17)として2016年5月30日に発行された。

自動車の衝突実験の際のドライバーの頭部安全性評価などでは、ひずみゲージ式加速度計が世界的に使用されているが、日本の事業者は遠心加速度を用いたひずみゲージ式加速度計を校正している。実際の衝突実験では、遠心加速度と異なりさまざまな周波数成分を含んだ加速度波形を計測することから、産総研が所有する衝撃校正装置と各機関が所有する遠心校正装置との同等性をひずみゲージ式加速度計のラウンドロビンテストを実施することで技術的に評価した。


本取組における自動車業界との活動概要と意義

開発の社会的背景

国内大手自動車会社は、10年以上前からひずみゲージ式加速度計を自社製品の衝突安全性能試験等に利用し、その加速度計の校正に遠心加速度を用いていた。そのため、遠心校正は自動車衝突試験に用いるひずみゲージ式加速度計を校正するための日本国内でのデファクトスタンダードであった。近年、欧州(おうしゅう)への自動車輸出に伴う認証項目である「安全性」(衝突安全、予防安全など)の評価試験では、ISO/IEC 17025への準拠といった今後の国際的基準調和に関わる試験結果の適合性証明を求められるようになってきたが、これまでの遠心校正の結果は事業者による独自保証であった。

研究の経緯

産総研はこれまで高加速度を発生する加振器の開発と、低周波振動や高周波振動を高精度に測定するレーザー光干渉式計測システムやそれに付随するデジタル信号処理に関する技術開発に取り組んできた。また、さまざまな国際機関比較に参加することで、加速度計校正技術の国際同等性の確保にも努めてきた。今回、産総研、国内大手自動車会社などが連携し、ひずみゲージ式加速度計の遠心校正に関する国際標準規格ISO 16063-17の発行に取り組み、同時に遠心校正の技術的妥当性について評価した。遠心加速度はDC成分のみの加速度波形となるが、欧州の衝突認証試験ではAC成分を含む衝撃校正によって評価されたひずみゲージ加速度計が用いられることから、海外からは遠心校正と衝撃校正の整合性について検証が求められていた。(図1を参照のこと)

今回のISO国際標準規格の発行への取り組みは、産総研 標準化基盤研究「遠心加速度校正に関する標準化研究(平成25~27年度)」や各参加機関の支援を受けて行われた。各参加機関は、産総研 計量標準総合センターの振動計測クラブを通じて、ISO/TC108/SC3における国際標準化活動の状況の把握や加速度計測に関する問題意識醸成を行っており、今回のISO 16063-17の規格発行に至った。


図1 自動車業界における加速度計の校正に関する世界的状況

研究の内容

今回、遠心校正の一次校正方法に関するISO国際標準規格の発行を目指したため、必要な作業は下記二点であった。

① 計測における不確かさの表現ガイド(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)に対応した遠心校正の不確かさを記述し、日本の実情に即した規格を作成すること
② 図2に示すような実際の自動車衝突実験と同じく時間変化を伴う衝撃校正を主とする他国の賛同を得るために、遠心校正の妥当性を検証した実験結果を提示すること

遠心加速度は回転円盤の半径と角速度の組立量であり、ひずみゲージ式加速度計の感度は回転円盤によって与えられる遠心加速度とひずみゲージ式加速度計の出力電圧との比によって与えられる。二点目を達成するには、経常的に遠心校正を使用している国内自動車業界と連携して、遠心校正による校正値の評価と、その妥当性を示すため衝撃校正と遠心校正の整合性を検証する必要があった。そのため、遠心校正装置製造事業者である共和電業との共同・受託研究によって、ラウンドロビンテストに適した安定性に優れた仲介器(ひずみゲージ式加速度計)の選定と、衝撃加速度と遠心加速度による校正条件(加速度レベル、測定回数)や手順、結果報告等に関する技術的な手順文書を作成した。その技術的な手順文書に基づき、産総研と4機関(共和電業、トヨタテクニカルディベロップメント、日本自動車研究所、日産クリエイティブサービス)との間で、同一の仲介器であるひずみゲージ式加速度計を持ち回って、その感度をお互いに比較するラウンドロビンテストを実施した。このラウンドロビンテストでは、産総研は衝撃校正装置(ISO 16063-13に準拠した一次校正)を用い、その他4機関は遠心校正装置を用いて、図3に示す結果が得られた。その結果、4機関における遠心校正の結果は、路上走行車 衝突試験規格 ISO 6487で要求される衝撃計測の確度(1.8 %)内に全て含まれた。これにより、産総研が所有する衝撃校正装置と各機関が所有する遠心校正装置との同等性が確認され、遠心校正による技術的な有用性を示すことができた。


図2 自動車衝突実験で計測される衝撃波形の典型例


図3 ひずみゲージ式加速度計における遠心校正と衝撃校正の整合性に関する検証結果
(エラーバーは路上走行車 衝突試験規格 ISO 6487で要求される衝撃計測の確度を示す)

まとめ

自動車衝突試験の安全性評価の際に、ISO 16063-17に準拠したひずみゲージ式加速度計が用いられることで、国内自動車メーカーの海外輸出に対する障壁を軽減できる。また、長年自動車業界が蓄積してきた時間変化を伴わない遠心校正のバックデータに対して、実際の衝突試験と同じく時間変化を伴う衝撃校正と整合する技術的エビデンスを与えた。

ISO国際標準規格は、一般財団法人 日本規格協会で購入できる。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
イノベーション推進本部
総括企画主幹  E-mail : a-oota@aist.go.jp

工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループ
主任研究員  E-mail : hideaki.nozato@aist.go.jp

用語の説明

不確かさ
計測データの信頼性を表すための尺度で、国際標準規格である”Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement(計測における不確かさの表現のガイド)”に基づいて評価されている。
ISO国際標準規格
ISOは正式名称を国際標準化機構(International Organization for Standardization)といい、各国の代表的標準化機関から成る国際標準化機関で、電気・通信および電子技術分野を除く全産業分野(鉱工業、農業、医薬品等)に関する国際規格の作成を行う。(日本工業標準調査会のホームページから引用) 加速度計の校正については、ISOのtechnical committee (TC) 108のsubcommittee (SC) 3で議論される。
ひずみゲージ式加速度計
物体のひずみを計測することでさまざまな力学量を計測することのできるセンサーである。例えば、受感部に抵抗を用いると、抵抗は伸縮することで抵抗値が変化するため、その抵抗値を読み取ることで力学量を測定する。対象とする力学量は多岐にわたり、加速度だけでなく、圧力や力、トルクなどが挙げられる。
衝撃校正
パルス的な加速度を用いて、加速度センサーを校正する方法である。さまざまな周波数成分を含むため加速度波形のため、ひずみゲージ式加速度計だけでなくDCに感度をもたない圧電型加速度計も校正可能である。
遠心校正
円盤を高速回転して発生させた遠心加速度を用いて、加速度センサーを校正する方法である。主な校正対象は、DCに感度を有するひずみゲージ式加速度計であり、長年日本の自動車業界を中心にして利用されてきた。
ラウンドロビンテスト
測定技能の同等性を検証することを目的として、参加機関の中で同一仲介器(本件では、ひずみゲージ式加速度計)を持ち回り、測定結果を比較する試験である。
ISO/IEC 17025
ISO/IEC 17025はISO 9001:1994をベースに、試験所・校正機関に対する技術的な要求事項を付加した規格である。 ISO/IEC 17025の認定を受けた試験所・校正機関が発行する証明書には、認定マークを付与することができ、国際的な信頼性を高めることができる。
DC成分
Direct Currentの略称であり、直流成分を意味する。時間変化をしない信号成分であり、遠心加速度は時間変化を伴わない信号である。
AC成分
Alternating Currentの略称であり、交流成分を意味する。DC成分とは対照的に時間変化を伴う信号成分である。衝撃はパルス的な加速度であるため、時間変化を伴う信号である。
振動計測クラブ
産総研 計量標準総合センター(NMIJ)が運営するNMIJ計測クラブの一環であり、振動計測技術やそれに付随した情報を会員間で共有することを目的として活動している。









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