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「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいてリサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRPの強度を向上させる製造プロセスを開発しました【産総研】

2016年1月19日

愛知県は、公益財団法人科学技術交流財団に委託して、大学などの研究シーズを企業の製品化につなげる産学行政連携の共同研究開発プロジェクト『「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト』を実施しています。

このたび、「低環境負荷型次世代ナノ・マイクロ加工技術の開発プロジェクト」において、国立研究開発法人産業技術総合研究所は、リサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRP(炭素繊維強化熱硬化性樹脂複合材料)の強度を向上させる製造プロセスを開発しました。

航空機、自動車などの輸送機器分野で、金属よりも軽量な構造材料として注目されているCFRP(炭素繊維強化樹脂複合材料)は、廃棄処理への対応としてリサイクルに向けた研究開発が活発に行われています。そのリサイクルにおける課題として、リサイクル炭素繊維は、新品の炭素繊維よりも、一般に強度が低下することが知られており、熱硬化性CFRPに利用した場合も強度が低下します。

今回開発したプロセスでは、熱硬化性CFRP製造時の樹脂を硬化させる加熱工程において、従来のオーブンではなくマイクロ波を用いることで、従来法よりも樹脂と炭素繊維の密着性が上がり、熱硬化性CFRPの強度を向上させることができました。

この開発によって、リサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRPの性能向上と製造コスト低減が期待できます。

リサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRP

1 開発の背景

近年、熱硬化性CFRPは、航空機、自動車などの輸送機器分野で、金属よりも軽量な構造材料として注目されています。しかし、炭素繊維のコストの高さ、熱硬化性CFRPの製造コストの高さ、また、製造工程で発生する中間材料の端材や使用済みCFRPの廃棄処理への対応が、熱硬化性CFRPを利用するうえでの課題となっています。

このうち、炭素繊維のコストの高さ、廃棄処理への対応として、「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトでは、過熱水蒸気を用いてCFRPから樹脂を分解除去し、リサイクル炭素繊維として回収する技術を開発しています。しかし、一般にリサイクル炭素繊維は、新品の炭素繊維と比較して、炭素繊維の劣化のために繊維の引張強度などの機械特性が低下する(表1)と同時に、不連続繊維であるため、サイジング剤を塗布することで母材樹脂との密着性を向上させることは困難です。このため、熱硬化性CFRPに利用した場合も強度が低下します。


表1 炭素繊維の引張強度
※MPa(メガパスカル) : 単位面積当たりに加わる力を表す単位


また、熱硬化性CFRPの製造コストが高い理由の1つとしては、熱硬化性樹脂を化学反応により硬化させる反応時間が長いことが挙げられます。そのため、樹脂硬化を促すための従来法としては、オーブンによる外部加熱(図1(a))が用いられますが、それでも数時間の加熱処理プロセスが必要です。それ故に、熱硬化性CFRPの製造においては、高速樹脂硬化法の開発が求められています。

そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所は、「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいて、これまでに、マイクロ波による内部加熱(図1(b))を用いて、熱硬化性CFRP中の母材樹脂を高速に硬化させる製造プロセス(D. Shimamoto et al., Open Journal of Composite Materials, 4, pp.85-96, 2014※※)を開発しました。

※※東レ㈱製の長さ130μmと3mmの新品の炭素繊維を用いた熱硬化性CFRPに関する研究。
 http://dx.doi.org/10.4236/ojcm.2014.42010

さらにこのたび、リサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRPの製造にマイクロ波プロセスを用いることで強度を向上させ、リサイクル炭素繊維を利用するための技術を開発しました。


図1 熱硬化性CFRPの加熱処理プロセスのイメージ
(a)オーブンを用いた外部加熱(b)マイクロ波照射による内部加熱

2 開発の内容

開発した製造プロセスの概要及び特長を以下に示します。

<概要>
本研究開発では、リサイクル炭素繊維を用いた熱硬化性CFRP中の炭素繊維を、マイクロ波を用いて急速に加熱することで、従来法のオーブン加熱よりも、炭素繊維と熱硬化性樹脂の密着性を向上させ、強度の高い熱硬化性CFRPを製造できることを見出しました。その結果、リサイクル炭素繊維を熱硬化性CFRPに使用することが容易になります。

<特長>
◆ 過熱水蒸気を用いて抽出したリサイクル炭素繊維と熱硬化性樹脂に対し、マイクロ波を照射することによって、リサイクル炭素繊維と熱硬化性樹脂の密着性(界面せん断強度 )を約10%向上させることが可能です(表2)。そしてこの値は、新品の炭素繊維と熱硬化性樹脂をオーブンで硬化させた場合の16.7 MPaと同等です。


表2 リサイクル炭素繊維と熱硬化性樹脂との密着性(界面せん断強度)


◆ 過熱水蒸気を用いて抽出したリサイクル炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグに対して、マイクロ波によって樹脂を硬化させた熱硬化性CFRPは、オーブンで樹脂を硬化させた場合と比較して、曲げ強度が約10%向上します(図2)。これは、マイクロ波によって母材樹脂を硬化させることで、炭素繊維と熱硬化性樹脂の密着性が向上したことが1つの理由です。その結果、リサイクル炭素繊維を熱硬化性CFRPに使用することが容易になります。


図2 熱硬化性CFRPの曲げ強度

新品の炭素繊維を用いたCRFP及びリサイクル炭素繊維を用いたCFRPで、マイクロ波による内部加熱により曲げ強度がともに約10%向上。なお、従来法のオーブンで加熱する場合と比較して1/9の時間で樹脂硬化が可能。


これらの結果は、過熱水蒸気処理により回収したリサイクル炭素繊維を用いたものですが、サイジング剤が除去された状態のリサイクル炭素繊維であれば、本プロセスにより熱硬化性CFRPの性能向上と、製造時間の短縮による製造コスト低減が期待できます。

3 今後の展開

マイクロ波プロセスによる炭素繊維と熱硬化性樹脂の界面密着性向上及び高速樹脂硬化に関するメカニズムを詳細に検討し、高い特性を有した熱硬化性CFRPの製造プロセス技術の高度化を目指します。プロセスの高度化によって、当該プロセスの産業利用への展開を図っていきます。

用語説明

「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト
高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究プロジェクト。大学、公的研究機関などの研究シーズを企業の製品化へつなげる橋渡しの役割を担う。

熱硬化性CFRP
CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化樹脂複合材料)は、強化材に炭素繊維、母材に樹脂を用いた複合材料。熱硬化性CFRPは、母材に加熱で硬化反応が促進される熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、フェノール樹脂など)を用いたCFRP。

低環境負荷型次世代ナノ・マイクロ加工技術の開発プロジェクト
プロジェクトリーダー : 名古屋工業大学 教授 中村隆 氏
愛知のモノづくりの根幹をなす加工技術において、地域のモノづくりを熟知した素材・加工の研究者が集結し、次世代自動車や航空機に活用が進む新素材に対する高精度・低コストな加工技術を確立する。10大学、5公的研究機関、31企業(うち中小企業18社)(平成27年4月1日現在)が参加。

マイクロ波
周波数が300MHz~300GHz(波長が1m~1mm)の電磁波。電子レンジなど加熱機器の加熱源として、また、携帯電話など通信機器の通信用電波として利用されている。

過熱水蒸気
飽和水蒸気を沸点以上に加熱した水蒸気のことで、空気に比べて高速な加熱が可能である。近年、その利用技術に注目が集まっており、例えば、食品加工の分野では、スチームオーブンとして活用されている。

引張強度
材料が切れるまで引っ張ったときに、材料に加わる最大荷重を材料の断面積で除したもの。

サイジング剤
繊維と樹脂の密着性、樹脂の繊維への良好な含浸性、繊維の取扱性などを確保するための表面処理剤。工業的には、処理浴に浸漬した繊維をローラで巻き取ることでサイジング剤を塗布するため、短い不連続繊維への塗布は難しい。

界面せん断強度
1本の繊維を樹脂中に包埋した試料を、例えば右図のように左右に引張ったとき、相対的に伸びにくい繊維が樹脂中で破断する。さらに引張負荷を増加させていくと繊維の破断が次々と生じるが、ある程度まで断片化されると繊維の破断は起こらなくなる。この樹脂中で切れた繊維の長さと繊維の引張強度を、統計処理することで求められる繊維と樹脂の付着力を示す数値。

プリプレグ
CFRP製造における中間材料の1種で、炭素繊維を引き揃えたシートや織物に樹脂を含浸させたもの。プリプレグを所定の形状に積層し、加熱することでCFRPを製造できる。

曲げ強度
界面せん断強度の説明図
寸法を調整した板材を、例えば右図のように中央に荷重をかけて破断させたとき、最大荷重と板材寸法、板材配置状況から規定の計算式によって求められる物性値。



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