最前線コラム

EV・HVの開発をサポートする信頼のテレメータ技術【マツイ】

EV・HV車は当然ながら、モータを搭載して駆動している。搭載モータの性能の確認、及び制御の最適化のために、モータの運転状態を正確に把握する必要がある。Manner社のテレメータは多くの現場で搭載モータの諸現象を計測するために採用されている。

モータに直接組み込んだテレメータ

モータの諸現象を計測する要望は、主にモータのロータに生じている諸現象ということになる。これらのモータは、15000rpmを超える高回転で、高温、オイルのミストのなかで回転している。 
モータは組み込み場所のスペースに合わせて設計されているため、殆どスキマの無い設計になっている。右図に示すように、ロータとステータ・ケースの間の限られたスペースにテレメータを搭載することを要請される。 
また、この様な設置場所によりバッテリを組み込むことは極めて困難で、ロータと一緒に回転しているテレメータに必要な電力を供給することが必須である。加えて、これらのモータは電磁力の作用で回転・トルクを発生させているため、強い磁場が存在している。このような磁気環境の中で、ノイズの影響を受けないで諸現象の計測とそれらのデータの送信を実行できるテレメータのみが、要求を満たすことができる。加えて、現場の計測の要求も極めて多様である。温度計測の場合、最大16カ所の温度計測を要求された実績がある。
永久磁石は高温下で性能が大きく変化するため、温度上昇を正確に把握する必要がある。組み込まれた永久磁石の温度を出来るだけ多点で計測したいという要望は、広く存在する。
また、力行回生をうまく制御することにより省エネを極限まで追求するため、モータのロータそのものに作用しているトルクを計測したいという要望も存在する。このように計測対象に合わせて、多様なチャンネル数、応答周波数の高低、ひずみゲージ一体でのトルク計測の要請等、極めて多様な要求に個別に対応し、これまで不可能であった計測を可能にしている。

常時外部給電可能な誘導式テレメータ

機構内部での計測を可能にするためには、回転部に取り付ける計測部+送信部をバッテリレスで運転する必要がある。常時外部からの給電を可能にするメカニズムを下図により説明する。
下図のブロック図に示す通り、レシーバで生成された高周波(13.56MHz)をピックアップから発信する事により磁場が形成され、磁場内に存在するコイル(ロータアンテナ)に電気が生じ、その電気で内部回路が機能し、増幅されたデジタル信号を磁場の上に載せて送信するシステムを実現している。コンパクトなアンテナを信号アンプと共に組込むことにより、パワートレーン内部に組み込んでの連続運転を可能にする。

ノイズフリーの信号処理技術

回転体に搭載した最新のPCM方式を用いたアンプにより、センサの信号はバイナリーのデジタル信号に変換される。バイナリー信号は強磁場下でも外部の磁場による影響が少なく、センサで計測された信号を変質することなく外部に送信する。従来のFM方式と比較し圧倒的にノイズに強い信号送信を可能にし、また周囲温度による信号のドリフト等も大幅に改善されている。信号アンプに使用する電子部品の選定及び同方式の採用により、自動車の機構内での高温下でも信頼性の高い、且つ高精度の計測を可能にしている。
給電、送信を実行する高周波の電波に13.56MHz(Suicaに使用している周波数)を使用しているため、自動車等の駆動部に使用されるインバータのキャリア周波数帯(10〜15KHz)と大きく隔離され、これらのノイズの影響は受けず、且つコストパフォーマンスの高いチップの使用を可能にし、多チャンネルでも高い周波数特性を可能にする。

コンパクト・多様な信号アンプ

前項で述べた通り、計測の要望内容は多様である。中でも多点の温度計測は要望の多い内容である。下図に示すアンプは15×21×5.5mmの寸法のチップで8chの温度信号を処理する能力を有している。これらを二個タンデムに接続することにより16chの計測が可能である。この二つのアンプの供試体を変更する場合、容易に取替え可能とするため、エンドプレートに搭載してモータのロータに取り付けるよう設計されている。
プレートの厚みも6〜7mm程度のスペースで、16chの温度計測装置が完成する。設置温度もMax.180℃に対応している。

高度な適用技術

モータの内部に搭載する場合、取り付けスペースがドーナツ状の円弧形状になるケースが多い。軸が貫通し、外周にステータの存在があるため、ドーナツ状のスペースしか利用の可能性が無い場合が多くなる。下図に示すものは、断面形状が10×10mm程度のリングに溝を加工し、その溝にフレキシブル基盤形状の信号アンプを埋め込みをしたリング形状のアンプユニットである。このアンプは1ch仕様がベースとなっており、必要なチャンネル数に拡張が可能である。また、基本仕様が周波数応答が1KHzであるため、ひずみゲージに対応すると同時に冷接点補償回路を追加することにより、熱電対にも対応が可能である。また、特定の入力のインターフェースを追加することにより、その他のセンサとも対応が可能である。
圧力センサ、ギャップセンサ等との取り合いも実績がある。

[株式会社マツイ  後藤幸治]


2013年5月1日発行
次世代自動車技術最前線2013より転載