最前線コラム

デジタルファクトリー構築と自動計測システムの役割について【東京貿易テクノシステム】

自動測定システム、組立・位置決め等の自動化システムの精度向上の為の支援計測システム(MMA/MMP)、及びデジタルトレーサビリティの確立、デジタルファクトリー構築の為のソリューションについて


 産業界におけるIndustrie 4.0, Industrial Internet等への関心の高まり、あるいは検査プロセスにおける自動測定のニーズの高まりなど、各々の要素技術・自動化技術・IT技術を活用して、生産の最適化を継続的・発展的に追求し、限られた経営資源下で、さらなる効率化-コストの最小化と利益の最大化を図る事が、今後の競争に勝ち抜いて行く為の必須の課題となっている。
 弊社のドメインである『測定』においては、
① 測定を自動化し効率化・生産性の向上をはかる事
② 計測システムから得た6自由度データ(位置及び姿勢情報)をリアルタイムに汎用ロボットにフィード
  バックして高精度な組立(MAA‐Metrology Assisted Assembly)あるいは位置決め(MAP-Metrology
  Assisted Positioning)を実現する事
③ 生産現場から得られる三次元幾何情報及び他のあらゆるセンサーからの膨大なデータ情報を
  サーバーで一括管理し、データ検索、レポート出力、統計処理など必要な解析をリアルタイムで
  実行、より迅速で的確な原因究明、対策実行を実施し、トレーサビリティのデジタル化を実現する事
  (”見える化“”共有化“”繋がる化“の実現) さらにはワランティクレーム、トラブル等の原因究明と
   対策が”人の手“ から”システム“が実施する究極のシステムの実現する事
④これらを実現するスマート三次元測定システムを構築する事
などが『測定』に求められ、期待されている事であり、その実現により『測定』がデジタルファクトリーの構築に重要な役割・貢献を果たす事になる。

1.社会的・技術的背景


ドイツが産官学一体で進めているIndustrie 4.0(第四次産業革命)は、本来の“産業革命”である蒸気機関を導入した機械化生産に続き、電力を使用したマスプロダクション、電気とITを活用した自動生産という産業革命を経て、現在、サイバーフィジカルシステムをベースにした第四次産業革命が起こっているとするもので、米国で進むIndustrial Internetの取組等いずれも標準化は今後複数年以上かかると言われているが、既に何らかの形で導入活用されている会社は多くあり、今後多くの会社で導入が本格化、拡大が加速化して行くのは間違い無い。IoT、AIの導入等によりさらに、付加価値の複合化、高度化・標準化等は進み生産性の向上も格段に進むと思われるが、現時点でも“繋がる”事によるアドバンテージが十分に有り、まずは小規模でスタートし、その効果を確認しながら、標準化にも対応して行く方がリスクの無い進め方かと思われる。

2.自動化の対象となる工程について、

産業界をリードする自動車産業においてはこれまで多くの工程にロボット等を利用した自動化が既に導入されている。しかしながら、これまで専用設備で行っていた工程を汎用ロボットに置き換えたり、自動化出来なかった高いスキルが必要な工程を自動化したり、あるいは単純な自動化だけでは無く、より高度で複合化した自動化を検討し導入するユーザーが増えている。航空機関連産業においては、15年以内に倍増する需要拡大予想を受けて、増産体制に入るものの、
● 一定の技術レベルを持つ労働力の確保が難しい事、
● 既存工場での増産は限界に来ている事
等の消極的な理由からだけでは無く、
● バリエーションモデル、新モデルの投入時の投資を最小限に抑える事、
● コンポジット材等新たな材料を採用する事による品質の低下を防ぐ為、
● コスト競争力をつけ、開発あるいは生産納期をさらに短縮する為 等のさらなる生産効率を最大限に高める等の積極的な理由で主にロボットを活用した自動化を拡大しデジタルファクトリーの構築を進めている。これらは航空機産業に限ったことでは無く、その他の産業にとっても同様な事と言える。下図は、航空機関係で進む各工程でのロボット活用検討状況である。
(Four by threeのホームページhttp://fourbythree.eu/consortium/より抜粋)

3.三次元自動計測システムについて

測定機を自動化するメリットは次の様なものが考えられる
① 計測時間の短縮、その事による測定N増し、あるいは全量計測の実現
② 高い品質の維持・安定化
③ 精度の安定・向上
④ 測定コストの低減
⑤ 測定内容の多様化(計測出来なかったものの計測)
⑥ 技術ノウハウの計測システムへの取込み⇒デジタル化と定量化 
⑦ IoT、AIを利用したスマート測定システムへの拡張
⑧ 汎用のロボットを使用する事により、オペレータの確保が容易に、また他のシステムとの共用等が可能
  になり、効率化が期待される事
⑨ 標準化、汎用化が可能になり、全体工程との連携が可能に。
⑩ ロボット、センサー、ソフトウェア等の開発のスピードが速く、互換性を確保する事により、システムの
  陳腐化が防げ、長期的・継続的に投資効果が望める
などがある。

左上写真; ライカトラッカー自動化システム; 航空機の主翼の計測; 1日掛かっていた計測が、自動機の導入により
       10分以内に短縮。
       National Institute for Aviation Research, Wichita/Hexagon Manufacturing Intelligence
       ホームページより
右上写真; VWグループではホワイトボデーの自動計測にライカトラッカーとレーザースキャナーによる非接触
       三次元自動計測を複数使用。
左下写真; 光学式トラッカーとレーザースキャナーによる非接触三次元自動計測。マフラーのアッセンブリーの計測
右下写真; 縞投影法を用いたカメラ式非接触三次元自動計測システム。
       (Carl Zeiss Optotechnik社製Cometシステムを利用)

勿論現時点での自動化システムには様々な課題が有るが、各々の要素技術の革新及び開発により、継続的により良いシステムが実現している。これからさらに改善・改良が期待される課題としては;
 ● オフラインティーチングの簡素化(如何にして早く簡単に自動化システムを使用して計測を実施
    出来るか) 自動オフラインティーチングを中心に、様々な手法の手法が進んでいる
 ● 計測のカバー率の向上。使用する技術により得手不得手が有り、測定する対象物の大きさ、光沢度、
    形状、精度要求等により適したシステムが異なり、なんでも計測出来るシステムは
    現状無い。しかしながら、個々の機器の開発が進み、カバー率が大幅に向上している、
    あるいは今後向上する見込みで有る
 ● 様々なセンサーを持ち替える技術(ATC)も確立されており、測定に合ったセンサーを使用する事が
    出来る
 ● 個々の技術を取り込んだハイブリッドなセンサーの開発に多くのメーカーが取組んでいる。
 ● ロボット、ソフトウェア、測定機そのものの汎用性・互換性の確保。インタフェース等の標準化、
    標準化等が、今後のデジタルファクトリー構築の必須項目となる。デジタルファクトリーの
    キーになる産業用ロボットの互換性の実現が待たれる。
 ● 価格の低減。個々の機器、ソフトウェア等のコスト低減による全体システムのコストダウン
 ● メンテナンスの容易さ; リモートメンテナンス、システム状況のモニター等

4.デジタルトレーサビリティの確立とデジタルファクトリーの構築

自動化した測定機を導入し、N増あるいは全量計測を実現しても、それらの計測データを活用しなければ意味が無い。三次元計測データに限らず、現場に導入された、センサー、カウンターその他から収集されるデータを如何に処理するのかが問題となってくる。膨大な量のデータを保管する事から始まり、必要な人に必要なデータだけをリアルタイムに解析し結果を“見える化”し、さらに製品化開発プロセスにおける納期短縮―品質ランプアップの短縮を実現し、量産においては不良をリアルタイムで検知、周知、対応して、そのトラブルの原因の特定と対策を実施する事などに利用する。この様に製造トレーサビリティを確立して、ワランティクレーム対策のスピードを上げ、撲滅を効率よく実施できる事が求められる。様々な機器・上位システムからの情報を吸い上げる為、インタフェースやフォーマットの標準化は今後の課題となってくるが、現時点で簡単にそれらのシステムと接続出来る事が重要となる。
これらのツールを使用する事により、計測を一段高いレベルへ押し上げ、これまでお金を生まないと誤解されていた計測がお金を生み、複合価値を派生させるツールへと昇華し、さらにはデジタルファクトリー構築の最重要要素としてその完成に貢献させる事が可能になると思われる。将来的には冒頭に記述した通りIoT、AI等の技術を利用してワランティクレーム、トラブル等の原因究明と対策が“人の手”から“システム”が実施する究極のシステムの実現する事が期待される。
下図はATS社のソリューションの位置付け・機能を説明した物である。ショップフロアーに有る、殆どの機器を簡単に接続出来、顧客の要望に準じた様々なアウトプット(レポーティング機能)が簡単に作成出来、また様々な上位システムと接続する事が可能。

5.ロボットの高精度化

高度な作業を実行する自動化システムには、高精度な位置決めが必要になり、それには高精度なロボットを利用するか、あるいはロボットの精度に依存せずに計測システムからのフィードバックコントロールにより精度を出すかのいずれかの対応が現状必要となる。 一般的に使用されている産業用ロボットでは、絶対精度は規定されておらず、標準的な精度は大体0.5mm~4mm、繰返し精度は0.06mm程度で、工業的に求められている絶対精度は0.2mm以下で有り、そのままでは使用出来ない。
● ロボットの誤差発生要因として次の様な物が考えられる
  ・ツールとフランジ面とのトランスフォーメーション、精度誤差(ゼロ/ホームポジション誤差)
  ・たわみ誤差、関節部分バックラッシュ、偏心、センサー解像度差・摩擦誤差
  ・慣性誤差、温度誤差など
● ロボットの精度向上は、次の様な補正を実施する事により得られる。
  アライメント(ロボット座標系、ロボットツール座標系、リファレンス座標系間)、負荷たわみ
  補正、適応モデルの情報計算(重量と重心をCADから抽出)、重力補正、バックラッシュ補正、
  物理パラメーターの最適化、ゾーン毎のキャリブレーション
● キャリブレーションによる精度向上について 下記検証結果の通り、平均誤差で0.127mm、
  最大で0.2286mmまで精度が向上した結果が得られている。


上記は、Boeing Research & TechnologyとNew River Kinematics社(NRK)との共同検証資料より抜粋
*NRK社よりロボットキャリブレーションのソフトウェアが販売されている。
ロボットをキャリブレーションする事により、ある程度の精度向上が得られるが、それ以上の精度が必要な場合はリアルタイムにロボットの先端エンドファクターの位置と姿勢をコントローラーにフィードバックし、制御する方法が有り、一部実用化されている。

ロボットの先端ツール(エンドエフェクター)の先端位置及び姿勢の計測について 上左図では、MoveInspectと呼ばれる動的三次元位置及び姿勢(即ち6自由度)計測が可能なシステムを用いる。(Aicon 3D社製)
上右図では、ライカ社のレーザートラッカー AT960シリーズを利用し、同様に先端部の6自由度等をリアルタイムに計測する。 Fraunhofer IFAMでは、ロボットを使用したフレキシブル加工システムの開発検証を行っており、先端の位置及び姿勢計測の為に、上記2種のシステムを併用している。
(下左、中央写真はMoveInspectシステム、下右写真はレーザートラッカーを利用した計測 Fraunhofer IFAM, Stadeのプレゼンより)

6.自動計測システムとQMSシステム

自動計測システムの基本プロセスとポストプロセス、各々に求められる事、及び弊社が提供している内容について、下記の表にまとめた。

まとめ

三次元測定機その他センサーから得られた寸法データ、視認による良否判定データ、生産ラインの情報、生産が行われている環境情報等、様々なデータを解析する事により、良否条件が明確になり、かつ製造トレーサビリティが確立される。さらには、PLM、EQMS、ERP等の上位システムとの連携により、企画開発、製造、販売、メンテナンス等の一連のプロセスが一体化し、これまで個々独立機能し連動が難しかったシステムが有機的に繋がる事により、生産性の継続的・発展的な拡大が期待できる。 また、さらにAI、IoTの発展的取込みにより、Industrie 4.0等が描いた世界が段階的に実現して行くものと思われる。
  
  
大河出版刊・月刊誌『ツールエンジニア』2016年11月号より転載

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